事件と判決
埼玉県川口市の当時中学生だった生徒が、インターネット上の掲示板にて実名を晒された事件について、12月10日、東京地裁(志賀勝裁判長)が実名やあだ名の書き込みがプライバシーの侵害にあたるとして、プロバイダ3社に発信者の氏名などの情報開示を命じました。
社会的・道徳的にどうであるのか、と言うことはスクールのブログ記事として相応しいかどうかの判断が難しいので触れませんが、ネットを活用したサービス・技術教育を提供するスクールとして無関心ではいられない部分について考えてみたいと思います。
’「実名投稿」裁判で開示命令…被害者と母親が語る“ネットいじめ”の苦悩 | FNN PRIME’
https://www.fnn.jp/posts/00400560HDK
そもそも匿名掲示板って、いつからあって、どんな問題が?
今はあまり表記されることがありませんが、BBS(Bulletin Board System)はWindows95どころか、Windows3.1がリリースされる1992年より前から存在しています。
一般的に「草の根BBS」と言われる、パソコン通信時代に仲間内で情報のやり取りをしたり、プログラムやCGの発表などのコミュニティの場として利用されていました。
もちろん、商用BBSとして会員が数万人いるような大手もあり、書き込みをすると自動的に名前(登録名であって実名かどうかは無関係)が表示されるというシステムだったNiftyServeなどが有名ですね。
この頃のネットは今と比べると平穏だったのかと言われるとそうではなく、非営利で届出が不要であったがためにSYSOP(シスオペ)の一存でどのような管理運営も出来てしまったことから、UL-Netのように逮捕者まで出してしまう草の根BBSも。
そして1995年にWindows95が発売され、ネット接続が簡単に出来るようになるとアングラなイメージだった草の根BBSは衰退し、ネットに繋がった多くの人が匿名掲示板に集まってきます。
現在の匿名掲示板の元祖と呼べそうな「あめぞう」が、更に「2ちゃんねる」が出来て一般にも認知されるようになったことで匿名掲示板は隆盛を迎え、1997年には酒鬼薔薇聖斗事件が、2000年には西鉄バスジャック事件が起きてしまうのです。
民事においても、2002年の「ペット大好き掲示板事件控訴審」判決が確定し、掲示板運営者が発信者に匿名性を確約することによって名誉毀損などを誘発していると判断されたことから、リモートホストの記録を始めるなどの自浄作用と言えば良いのか自己防衛と言えば良いのか難しいところですが、ともあれ事件によって少しずつ「匿名だから何を言っても良い」と言う雰囲気は薄まって行ったのではないかと思います。
対策はもちろん行われてきました。
その流れは2002年5月にプロバイダ責任制限法が施行されたことによって更に強化されましたが、それでも「学校裏サイト」などのように、ネットにおけるリテラシー教育が徹底されていない中高生は匿名掲示板への書き込みに対する自己責任を強くは認識できていなかったのか、問題は止みませんでした。
また、プロバイダにしても明らかに違法行為であると明確に判断できるような状況はそうそうないため、おいそれと個人情報の開示請求に応じる訳にもいきません。そのため、個人で情報開示請求をしても、ほぼプロバイダに断られるという状態が多いのが現実です。
だからこその裁判であり、そしてその意味で今回の判決の影響は大きいのではないでしょうか。
中学生だから、高校生だから、を言い訳にはできず明白に個人を誹謗中傷し、いじめもしくはいじめを助長する発言を匿名で行った人は、個人情報を開示されるということになったのですから。
更に言えば、今年2018年にはtwitterで写真を無断使用していた人だけでなく、そのツイートをリツイートした人の情報開示まで認められる判決が下されています。
子どものやることだから、まだ教育が徹底されていないから、後者の例で言えば著作権裁判についてはそもそも「知らなかったから」は許されませんが、いずれにしてもネットの匿名性に胡座をかいて安穏としていられないようになっているのだ、とネットリテラシーについての意識を引き締めなければならないのではないかと思います。
ネットリテラシー教育は、万全ですか?
自分は影に隠れて安全な場所から他人を攻撃する、ことが許されないと言うきっかけを作った今回の判決は、社会道義的に見ても良い方向へ向かうためのものであったと信じたいと考えています。
同時に、我が身を振り返って、ネット上でなくとも無意識にそのようなことをしていないかを自省しなければならないな、とも思っています。
皆さんの会社ではどうでしょうか。
「大丈夫、大丈夫」
「そうは言っても、んな簡単にバレないって」
「そんなこと知らないし」
心の中で少しでもそう思ってしまう緩みを持つ社員が、匿名による名誉毀損にしても著作権にしても、会社を傾かせる原因となってしまいます。
4月には新入社員を迎える企業の人材担当の方にとっては他人事ではないかも知れませんね。
ちょっとでも不安だな、と思う方にはセミナーもご用意しています。
私たちも、ネットというシーンを活用する教育に携わる一員として、より一層引き締めて授業に取り組んで参ります。