「デザインはMac」神話は今でも有効なのか

「デザインを学ぶのにMacじゃなきゃいけませんか?」
受講のカウンセリング※1で、デザインをやったことないけど目指したい、という方にはよく聞かれます。
そこで今回は、デザイナーを目指すためにWindowsとMac、どちらを買った方が良いのかを考えてみます。

まず簡単に歴史から

デザインというとMac、が定番、というより他に選択肢がなかった時代があります。
まだWebがない頃、デザインといえば紙に出力するものであって、デザイナーと言えばデッサンや美術を学んで自分の手で描くのが仕事だった時代から、機械化が進みコンピューターが出現し、デザインもコンピューターでやるようになったという時代が、それです。
この「コンピューターでやるデザイン」をDTP(DeskTopPublising)と言い始めたのは、PageMakerという組版ソフトを出していたAldus社の社長ポール・ブレイナード氏でした。
そしてこのPageMakerがMac対応ソフトであったのは、WYSIWYG環境※2を実現していたのがMacだけだったからです。

その後主流となったQuarkXPressもVer3あたりまではMac専用であり、1980年代半ばから始まったDTPは2000年までは「DTP=Mac」は絶対であり、そうでなければそもそも仕事にならないという時代だったのです。
だからデザイナーも印刷所もそろってMacを導入し、DTPはMac、が定着しました。

そして、Microsoftが3.1からWYSIWYGをほぼ実現し、革命的OSであるWindows95によって市場を席巻したことでコンピューターはIBMとAppleの時代からMicrosoft一強となり、圧倒的なシェアを誇るようになります。
それでもまだ、DTPはMacであったのは、フォントやディスプレイの問題もさることながら、印刷会社がMacだったからというのが一番の理由でしょう。
が、これも転換を迫られることになります。
紙媒体からWebが中心の時代になるにつれ、紙の印刷を主力としてデザイナーや制作会社だけを相手にしていればよかった印刷会社が、エンドユーザーからの直接受注を行わなければ生き残れなくなったから、つまり「印刷やデザインを発注するお客様がWindows」となったからです。

Printer in 1568-ce※wikipedia ヨハネス・グーテンベルグの活版印刷より※ Jost Amman [Public domain], via Wikimedia Commons

2000年代なかばにもなるとWindowsの弱点であったディスプレイの発色やカラー、フォントなどの問題も解決され2010年代ではもはやデザインをMacでやるメリットは存在しなくなりました。
そこで今回の記事、「デザインにはMacとWindowsどちらが良いの?」という問題に直面する訳です。

Windowsのメリットとデメリット

メリット1 マシンを選べる、しかも安い

これはMacに対する最大のアドバンテージだと思います。
最低限A4サイズのデザインが出来れば良い、あるいはECサイトなどのバナー広告作成を中心に受注したいという場合であれば安価なもので良いですし、動画にまで手を出したいというのであれば4Kだろうが60fpsだろうが余裕で編集できてしまうスペックのものを購入することもできます。
しかも、同スペックで比べるとWindowsの方がMacより圧倒的に安いというのは魅力的です。

メリット2 クライアントとのやり取りがしやすい

2019年4月時点でWindowsのシェアは88%、Macが9%です。(NetSHARE
あなたがMacを使っている人以外とは仕事しない、というのなら別ですが、普通に仕事をしていたらほぼWindowsを使っている人が相手になるということになります。
現在ではさほどWindowsとMac間のやり取りで問題が発生することはありませんが、絶対ではありません。
特に圧縮ファイルのやり取りで文字化けしたり、とかですね。
Macで作ったファイルをWinで開いてみたら……
特にWebデザインでは、9割の人がWindowsであなたのデザインを見るのです。
最初からWindowsを選択しておけば、可能性のある問題に接することもなくスムーズに仕事が進むことは間違いないでしょう。

メリット3 フリーソフトが豊富


言うまでもなく圧倒的シェアを誇るOSは圧倒的多数が使っているので、フリーソフトの製作者たちも圧倒的数量と質を誇ります。
当たり前ですよね、せっかく作ったものなんだから、より多くの人に使ってもらいたいというのは。
だとすれば、Mac用のツールを作るよりWindows用のツールを作った方がいいわけですから、有料・無料問わず便利なソフトの数も質もWindowsが勝っています。

デメリット1 動作のもっさり感

Windows3.1から10まで、自作PCからメーカー製、数百万もする構成のワークステーションまで使い、MacはOS9からX、マシンもG4からノート、Pro、iMacなどほとんどの機種を愛用している感触(ベンチマークした訳ではないので、そうは言っても感触になってしまいますが)から言わせてもらうと、操作感は絶対にMacの方が優れています。
特に入力デバイスは完全に純正で揃えたMacは細かな操作を指先の動きどおりにタイムラグなく画面上で再現してくれますが、Windowsではどうしてももっさり感が否めません。
ミリ単位の細かい操作を行うデザイナーにとっては致命的……とも言い切れませんね、数字で指定すれば良いですし、便利な機能も多数搭載されている昨今のソフトウェアからすれば大きな問題にはなりません。
が、体感的にストレスのない操作が実現できていないというのは、Windowsにとって分が悪いでしょう。

デメリット2 マシントラブル

故障した際の修理対応が、購入したメーカーや販売店によってまちまちであるということです。
Macは全てAppleサポートで対応してくれますが、Windowsは同じメーカーでも直販のメーカー対応だったり店売りの販売店対応だったり、ならどちらの保証に入った方が良いのかなど、面倒です。
様々なメーカーの機種が選べる、ということの裏返しになりますが、トラブル対応はどこでどうしてくれるのかというのは購入時にきっちり調べておきたいですね。

デメリット3 かっこ悪い

まあ、何というか、個人的趣味でしかないかも知れませんが、やはりMacに比べるとWindowsって画面もマシンもかっこ悪いなあ、と。
いえ、やっぱりこれは個人的な趣味なので忘れて下さい。

Macのメリットとデメリット

メリット1 操作の軽快さ

これはもう圧倒的。
Windowsではどれほどマシン性能を積み上げても、Macの操作感には勝てません。
Akrosの教室のマシンでなくて恐縮ですが、個人で使っているiMacは電源入れてから使えるようになるまで(これ結構重要です。あのくるくる回ってるの、MacでもWinでも苛つきますし、使えなくはないけど結局止まるまではまともに動きませんよね)20秒くらい、Photoshopは1秒以内で「使える状態に」なります。

メリット2 情報が多い

先述したように、デザイナーでMacを使っている人は多いですし、先達となるとほぼ全員がMacを使っています。
つまり、デザインをするにおいて様々なノウハウなどはMacをベースに書かれていることが多く、様々な掲示板などで質問を投げた際もMacを基準に書いた方が良い返答を多く貰えるかも知れません。
単純な作業の問題であればOptionとAlt、CommandとCtrlを置き換えれば良いですが、システムの深い部分に入るようなカスタマイズだったりプラグインだったりすると、Win⇔Macの読み替えは大変ですし対応していないかも知れません。
そういった意味では、先達に習ってMacにするという手も考えられますね。

メリット3 かっこいい

いえこれね、結構大事なんですよ。
プロのカメラマンが「実のところコンデジでいいんだけどさ、やっぱデカくてゴツいカメラ持っていかないとクライアントが不安がるのよ」と言うことがあります。
プロならプロの見た目というのは仕事をもらう際には重要で、初回の打ち合わせ時や提案の際に、さっとカバンから出すノートがMacbookかWindowsのノートかというのは多少なりとも関係します。

そう、プロなら自分を演出することも、プロとしての仕事のうちなのです。

デメリット1 高い

何しろ高いです。
当分(最低でも向こう5年くらいは)困ることがないだろう、というスペックでiMacPROを構成してみるとこのお値段になります。

今年の秋にはMacProが発売される予定ですが……恐ろしくて値段を見たくないですね。
ノートの場合は持ち歩くことが前提ですし、そうなると故障する可能性もデスクトップに比べると高くなりますので「スペック抑えてもいいから安く買い換えることを前提にする」か「ある程度高負荷にも耐えられる性能の良いものを選択する」か、悩ましいところですね。

デメリット2 選択肢がない

高い上に選択肢がない、つまるところMacを選ぶなら高額出費は覚悟の上でなければならないということです。
マシンに拘りはないという人なら良いですが、相棒はしっかり選んで末永く付き合いたいという人には初期投資としては厳しいですね。
ただ、これはWindowsのデメリットであるトラブル対応については逆のメリットとなり、サポートはどこでどうすれば良いのかが明白なので助かります。

デメリット3 熱処理がうまくない

もちろんWindowsマシンも機種によりますが、Macは総じて熱処理が下手です。
要するに「ウルサイ」です。
ちょっとした動画編集でもウンウン唸りだしてファンが高速回転し、それに別のツールを立ち上げたり音楽鳴らしたりするだけで爆発するんじゃないかと不安になるような熱処理をしだします。
発熱も凄いので、狭い部屋で夏場に高負荷をかけると勘違いではなく実際に部屋の温度が上がります。

結論、Akrosに通う際にはMac?Windows?


好きな方で構いません。
Akrosではどちらでも指導できる体制を整えていますが、「好きな方を買えば良い」です。
まずはデスクトップの場合。
・Windowsでデザインツールに耐えられるマシンを持っているなら、何も買う必要なし
・Windowsを使っていて、新しく購入しなければならないなら、Windowsを買う
・Windowsに慣れているというほど使っておらず、お金に余裕があるならMac
次にノートの場合。
・Windowsでデザインツールに耐えられるマシンを持っているなら、何も買う必要なし
・まずは勉強からだから安ければ安い方が良い、というならWindows
・プロになってからもある程度の期間大事に使いたいと思うならMac
・雰囲気や演出は仕事にも勉強のモチベーションにも大事、と考えるならMac
でしょう。
ただし、DTPではなくWebデザインを目指したいならWindowsをおすすめします。
なぜなら、先に述べたように見る人のほとんどがWindowsですから。

※1
Akrosは無料の「体験」だけではなく「カウンセリング」を行っています。
まず受講希望者の「背景」を教えてもらい、「これから」を提案するためです。
今まで何をしてきたか、なぜ学びたいのか、どうなりたいのか、それとも何もわからないから今後の指針を一緒に考えて欲しいのか……通り一辺倒の体験や説明会などでは、人の一生に関わることなんてとても提案できないと思うからです。

だから無料カウンセリングは最低でも1時間、人によっては2時間、更に後日2時間、なんてこともあります。
私達は公共の教育機関ではなく、民間の営利団体です。
他のスクールのように効率的に進めたいと言う希望はもちろんありますが、それでもこのカウンセリング方法を止めるという選択肢は持っていません。
むしろ営利企業だからこそ、無理やり入学させて結局退学する、という無駄な返金処理をしたくありませんし、それは私たちだけでなく通った時間が無駄になる受講生にとっても不幸な結果にしかなりません。

私達はカウンセリングで「今まで」と「これから」をしっかり聞きます。そして一緒に考えます。
その結果、他のスクールをおすすめすることもあります。
Akrosでしっかりカウンセリングして、全てを話し、全てを聞いて、そして一緒に夢を実現したいと思う方は、ぜひ一度お問い合わせ下さい。
この記事に書いた、マシン選びから相談に乗ります。

※2 WYSIWYG
What You See Is What You Getの頭文字、「見た通りの結果が得られる」つまりここでは「画面で見たものが印刷で見るもの」と考えて下さい。
ここに画像、ここに文章、この文には下線、色はこれ、などPCで指定していることが画面上でも印刷上でも同じに表現されていることです。
例えば、


こんな風に「ここで改行」を<br />と表示されていたり、「ここは太字で強調」が<strong>で示されているのでは、仕上がりをプレビューしなければ確認できないのでWYSIWYGとは言いません。
印刷では特に出力された状況を見ながらデザインできることが、どれだけ重要なことかは説明するまでもないと思います。
だからDTPはWYSWIG環境が実現されていることが重要であり、むしろWYSIWYGでなければDTPなどできない、ということになります。